屋上緑化の失敗要因に構造で向き合う技術整理
屋上緑化の失敗要因に構造で向き合う技術整理
常緑キリンソウ袋方式 ― 構造的に失敗しにくい理由(技術的整理)
はじめに(本ページの読み方)
本ページは、常緑キリンソウ袋方式について、
**「どのような条件を前提に、どのような考え方で成立している方式なのか」**を、
第三者が確認・参照・引用できる形で整理した技術説明ページです。
本ページは、初期の見た目や保証条件ではなく、
施工・環境・管理・経年変化を含めた構造的成立性の観点から、
**「なぜ失敗しにくいのか」**を技術的に整理した参考資料です。
なお、本ページは以下を目的とするものではありません。
・特定方式の推奨、他方式との比較、優劣の提示
・特定条件下における性能の断定
・保証や点検によって成立性を説明すること
本ページの目的は、方式の前提条件と**構造的な考え方(設計思想)**を明示することにあります。
実際の荷重条件、施工方法、納まり、具体的な施工事例については、
別ページおよび関連資料を参照してください。
本方式は、屋上緑化における失敗が、
単一の要因ではなく、
環境ストレス(猛暑・乾燥・散水停止)、
豪雨時の基盤攪乱・流亡、
および雑草侵入による管理破綻が
時間差で連鎖的に顕在化する構造問題であることを、
設計上の前提条件として認識しています。
そのため本方式では、
特定の性能や管理行為に依存するのではなく、
これらのリスクが相互に影響し合うことを想定したうえで、
構造側で連鎖破綻が起こりにくい方向性を採用しています。
以下の各章(第4章・第5章・第8章)は、
この連鎖的リスク認識を前提として、
それぞれの要因に対する考え方を個別に整理したものです。
目次
1.本方式の位置づけ(公式定義)▶
― 常緑キリンソウ袋方式とは何か(方式の輪郭)
2.想定環境条件と設計前提▶
― 屋上・土木環境を横断した成立前提の整理
3.施工段階におけるリスク分散の考え方(工事依存リスク)▶
― 属人化・施工差・工事条件に依存しにくい設計思想
4.猛暑・乾燥・散水停止に対する考え方▶
― 設備依存に偏らない成立構造
5.豪雨・排水・基盤流亡への考え方▶
― 排水一点依存を避ける多重排水思想
6.風害・端部破綻に対する考え方▶
― 柔構造・非一体連動配置による影響分断
7.管理依存度と局所不良時の挙動▶
― 管理が完全でなくても破綻しにくい構成
8.雑草繁茂リスクへの考え方(管理破綻リスク)▶
― 屋上緑化で頻発する失敗要因への整理
9.経年変化と更新性(防水改修を含む)▶
― 建物ライフサイクルを前提とした更新・再配置の考え方
10.施工・改修・撤去段階における実務リスクへの適合▶
(移動・撤去・分別・改修時リスク)
― 改修工事・既存建物で顕在化する実務リスクへの対応
11.実在事例に基づく成立確認(参考情報)▶
― 長期にわたり確認可能な実例について
12.数年後の被覆率・安定性について▶
― 初期完成度ではなく時間軸で捉える考え方
13.保証・点検の位置づけ▶
― 成立条件と保証の切り分け
14.頻繁な点検や高度なメンテナンスが継続できない現実への適合▶
― 実務運用を前提とした最終整理
15.本ページの位置づけについて(第三者監査対応)▶
― 技術説明資料としての位置づけと参照範囲
(標準図PDFへのリンク明示)
まとめ▶
― 「なぜ構造的に失敗しにくいのか」の思想回収
1.本方式の位置づけ(公式定義)
常緑キリンソウ袋方式とは、
**常緑キリンソウ(トットリフジタ1号:品種登録番号第15866号)**を、
透水性・通気性を確保した袋状植栽基盤にあらかじめ定植し、
これを屋上防水層上に配置することで緑化を行う、
薄層・分散配置型の屋上緑化方式です。
本方式は、
初期完成時の見た目や短期的な生育状態ではなく、
日本の屋上という過酷な環境条件のもとで、
数年後も緑化が成立しやすい構造を前提として設計されています。
2.想定環境条件と設計前提
常緑キリンソウは、もともと土木・建築分野において、
雑草の繁茂や土壌流出といった課題に対応するために利用されてきた植物です。
特に砂防堰堤などの土木構造物では、
散水設備を設けることができず、
また日常的な維持管理に強く依存しない条件下で、
植生を長期的に成立させることが求められてきました。
このような土木分野での利用環境では、
・設備に依存しないこと
・維持管理が十分に行われない可能性を前提とすること
・雑草の繁茂や基盤材の流出による機能低下を抑制すること
といった考え方が、設計の前提条件として重視されてきました。
常緑キリンソウ袋方式は、
こうした土木分野で培われてきた考え方を背景として、
屋上という過酷な環境条件へ適用することを意図して構成されています。
本方式は、次のような屋上特有の条件を想定前提としています。
・地上と比較して高温・乾燥になりやすい屋上環境
・夏季に散水量が不足する、または自動散水設備が一時的に停止する可能性
・設計・施工後、管理者の交代や予算縮小等により、
頻繁な点検や高度な専門メンテナンスを継続することが難しい実務環境
これらは、
理想的に管理され続ける屋上環境を前提とした条件ではなく、
実際の建物運用において起こりやすい状況を想定したものです。
本方式では、
このような現実的な運用環境を前提とし、
設備や管理が常に理想的に維持されることを成立条件としない、
構造側でリスクを低減する考え方を設計前提としています。
※ 本方式は、
完全な無灌水状態や無管理状態での成立を保証するものではありません。
あくまで、管理条件が理想通りに維持されない場合であっても、
直ちに全面的な成立破綻に至りにくい構造を目指す考え方を示すものです。
3.施工段階におけるリスク分散の考え方(工事依存リスク)
屋上緑化の成立性は、
設計や植物特性だけでなく、
施工段階における人的要因や体制の影響を受ける場合があります。
一般に、屋上緑化の品質を担保する考え方には、
施工・管理を特定の事業体が一貫して担うことで
品質を維持・向上させる方法と、
施工主体が変わっても成立しやすい構造や方式によって
品質のばらつきを抑制する方法があります。
常緑キリンソウ袋方式は、
後者の考え方に基づき、
生産者・販売者・施工者が分離した場合であっても成立しやすい構造を
前提として設計されています。
本方式では、
植栽基盤が袋単位であらかじめ形成され、
現場で行う作業は主として配置・調整・納まりの検討に限定されます。
このため、
現場での施工技術や経験の差が、
植栽基盤そのものの品質や初期条件に直接影響しにくい構成となっています。
また、
袋単位で独立した構成であることから、
施工時の一部の不具合や納まりの調整不足が、
緑化面全体の成立に連鎖的な影響を及ぼしにくい構造となっています。
本方式は、
「高度な施工技術を前提とする方式」や
「特定の施工者でなければ成立しにくい工法」を前提とするものではありません。
誰が施工しても同一の結果を保証するものではありませんが、
施工技術のばらつきが、
そのまま緑化の成立性や長期安定性の差として表れにくい構造を
目指した設計思想に基づいています。
このように、
施工品質を人や組織の体制に強く依存させるのではなく、
方式そのものの構造によって
施工段階におけるリスクを分散・低減する考え方は、
管理や運用が理想通りに継続されない現実的な屋上環境においても、
成立破綻が起こりにくい状態を形成するための
一つの設計上の前提となっています。
※ 本方式は、
施工管理を不要とするものではありません。
設計条件や現場条件に応じた適切な施工計画および確認が
行われることを前提としています。
4.猛暑・乾燥・散水停止に対する考え方
本方式は、猛暑・乾燥・散水停止といった環境ストレスが
屋上緑化の成立を阻害し得る主要因であることを、
設計上の前提条件として認識しています。
本方式は、
常時散水設備が正常に機能し続けることを成立前提とした構造ではありません。
採用植物は、
**常緑キリンソウ(トットリフジタ1号)**です。
本植物は、乾燥条件に対して高い耐性を持つ植物として選定されています。
本方式では、
基本的に自然降雨が直接当たる環境への設置を想定しています。
本方式は、
・日本国内の一般的な屋上環境
・年間降雨がある地域
・極端な長期無降雨が連続しない条件
を前提として成立する構造です。
※ 上記前提条件が満たされない場合は、
設計段階において散水計画や配置条件を含めた個別検討が必要となります。
土木構造物においては、
散水設備の設置が困難、あるいは不可能な環境が一般的です。
例えば、砂防堰堤(さぼうえんてい)などでは、
1:0.25(縦:横)= 約76° 程度の急勾配面が一般的であり、
自然降雨が緑化面全体に比較的均一に当たる条件が形成されます。
本方式は、
このような散水設備に依存できない環境条件を前提に、
自然降雨のみで成立する構成について、
実証と検証を重ねてきました。
また、一般的な緑化では土壌が表面に露出するため、
高温・乾燥時には蒸発によって土壌水分が急激に失われやすくなります。
本方式では、
植栽基盤を袋内に保持することで、
土壌が外気に直接さらされる面積を抑え、
蒸発による水分損失を構造的に低減する考え方を採用しています。
そのため本方式では、常時散水設備の正常稼働を成立条件とせず、
植栽基盤を袋内に保持する構造により、
蒸発面積を抑制し、
一時的な水分不足が直ちに全面破綻へ連鎖しにくい方向性を
採用しています。
これらの要素を組み合わせることで、
散水停止や高温・乾燥が一時的に発生した場合でも、
直ちに全面的な成立破綻に至りにくい構造を目指しています。
ただし、成立条件は屋上の方位・日射・反射熱・風・乾燥期間等により変動するため、
散水の要否および立ち上げ期の水分条件は、
設計段階で必ず個別に確認・整理されることを前提とします。
※ 無灌水状態での成立期間や耐乾燥性能を
数値・期間として保証するものではありません。
5.豪雨・排水・基盤流亡への考え方
本方式は、集中豪雨時の滞水や排水不良が、
基盤攪乱や成立不良を引き起こし得るリスク要因であることを
前提として設計されています。
本方式では、
植栽基盤を保持する袋として、
繊維密度の高いポリエステル製不織布を使用しています。
この袋構造により、
降雨量に応じた水の挙動を、
構造的に分けて受け止める考え方を採用しています。
本方式が主として想定しているのは、
一般的な陸屋根(低勾配屋根)を前提とした屋上環境であり、
屋根面全体において自然排水が成立していることを
基本的な適用範囲としています。
※ 特殊な急勾配屋根や、
排水経路が限定される特殊形状屋根については、
本方式の標準的な想定範囲外となり、
設計段階での個別検討が必要となります。
弱い雨や通常の降雨時には、
雨水は袋の繊維間や、植栽部・ファスナー部の隙間を通じて、
時間をかけて袋内部の土壌へ浸透します。
一方、
短時間に集中する大雨や激しい降雨時には、
雨水は袋表面を流下しやすく、
袋内部に急激な滞水が生じにくい挙動となります。
袋構造により、雨水の挙動を
「袋内部へ浸透する水」と
「袋表面および袋間を流下する水」に分けて受け止め、
袋間隙・外周目地を含む複数の排水経路を
並列的に確保する構造を採用しています。
常緑キリンソウ袋方式では、
50cm角の袋ユニットを基本単位としていますが、
土壌を充填した状態では、
袋断面は中央部が最も膨らむ形状となります。
この形状により、
袋同士を一定間隔で配置した際、
袋の四辺それぞれに自然な隙間が形成されます。
これらの隙間は、袋間排水経路として機能します。
また、
土壌が袋内に保持されているため、
降雨による土壌流出が生じにくく、
排水経路が土壌で詰まるリスクを構造的に低減しています。
屋上緑化の外周部には、
地先境界ブロック(例:100mm×100mm×600mm)を設け、
ブロック間に排水用の目地を設ける構成としています。
この外周部目地も排水経路の一部として機能します。
ただし、
ドレン周り、立上り、笠木、パラペット等の端部詳細については、
建築側の防水仕様および屋根排水計画によって適切に処理されることを前提としています。
本方式では、
・袋表面を流れる表面排水
・袋四辺に形成される袋間排水
・外周部目地による排水
といった複数の排水経路を並列的に確保する構成としています。
これにより、
特定の排水経路に水が集中した場合でも、
排水機能が一点に依存せず、
局所的な攪乱や流亡が連鎖しにくい状態を形成します。
また、ドレンの部分的な詰まりや、
排水能力を一時的に超過する降雨が発生した場合でも、
排水が一点に集中しない構成としています。
さらに、表層基盤の流亡や攪乱が生じた場合には、
裸地化や微細な隙間の発生を通じて雑草侵入が促進され、
雑草繁茂が再び基盤攪乱を助長するという
連鎖的破綻が起こり得るため、
本方式では流亡・攪乱と雑草侵入を相互に影響し合う
構造リスクとして捉えています。
本方式は、
屋根全体の排水性能や建築ディテールを
単独で保証するものではありません。
防水仕様、ドレン計画、端部納まり等が
適切に成立していることを前提としたうえで、
植栽基盤側の流亡・攪乱リスクを
構造的に低減する考え方を示すものです。
ただし本方式は屋根全体の排水性能を代替するものではなく、
屋根勾配・ドレン計画・端部納まりが適切に成立していることを、
設計段階で必須条件として確認することを前提とします。
※ 本章に記載する内容は、
特定条件下での性能や限界を断定するものではありません。
実際の適用にあたっては、
屋根形状・勾配・排水計画・防水仕様等を踏まえ、
設計者の判断により個別に検討されるものとします。
6.風害・端部破綻に対する考え方
本方式は、
袋単位で自重を有する植栽ユニットを面状に配置する構成です。
袋はポリエステル製不織布で構成されており、
袋表面および植栽部・ファスナー部の隙間から、
風を完全に遮断せず、一部を通過させる特性を有します。
このため、
硬質な板状部材や、面として一体化した構造と比べ、
風圧を正面から受けにくい構成となっています。
また、袋端部は柔軟性を有しており、
風を受けた際にも折れ曲がることで風圧を逃がしやすく、
揚力が生じにくい挙動を示します。
袋ユニットは多数並ぶ構成であるため、
一部に外力が作用した場合でも、
面全体が連動して浮き上がるような
一体連動構造とはなっていません。
風に対する挙動については、
風洞試験等において、一定条件下で袋が浮き上がらず、
自重と配置により安定する挙動が確認された事例があります。
ただし、耐風性能を数値として一律に保証するものではありません。
本方式が、
特定の階数や風圧帯を成立条件として断定していないのは、
風害リスクが建物高さだけで決まるものではなく、
周辺建物の影響、屋根形状、立上り形状、端部納まり等の
建築条件との組み合わせによって大きく変動するためです。
設置条件に応じて、
ハトメ付き袋による連結、樹脂ネットによる被覆など、
補助的な飛散対策を講じることも可能です。
屋上緑化外周部には、
地先境界ブロックを耐根シートを介して防水層上に固定し、
外周部の重量と抑制により、端部袋が動きにくい状態を形成します。
本方式は、
特定の耐風速値や階数を前提に成立を断定するものではなく、
柔構造・自重・非一体配置・端部抑制を組み合わせることで、
風害による端部破綻が起こりにくい構造を目指した考え方です。
7.管理依存度と局所不良時の挙動
本方式は、
管理が常に理想的に行われることを前提とせず、
管理が一時的に不十分となった場合でも、
直ちに破綻に至りにくい構造を目指しています。
1袋あたり複数株の常緑キリンソウを植栽することで、
一部株に生育不良や枯損が生じた場合でも、
残存株の生育により被覆状態が急激に低下しにくい構成としています。
常緑キリンソウは、
水分条件に応じて光合成挙動を変化させる特性を持ち、
高温・乾燥・多湿条件下においても、
生育が急激に不安定化しにくい植物特性を有します。
このため、
日本の多雨期・高温期・乾燥期・低温期といった
季節変動の大きい環境に対して、
比較的安定した生育が期待される特性を前提としています。
袋はファスナー式構造であるため、
局所的な補植・部分補修が可能であり、
袋単位での交換や再配置も行いやすい構成です。
また、
前章で示した排水構造および乾燥抑制構造により、
管理依存度の低減および
局所不良の影響が全体へ波及しにくい設計思想を形成しています。
※ 管理を不要とする方式ではありません。
8.雑草繁茂リスクへの考え方(管理破綻リスク)
屋上緑化の失敗要因としては、
植栽の枯損や排水不良だけでなく、
維持管理が継続できず、雑草が繁茂してしまうことが、
実務上、少なからず見られます。
特に屋上緑化では、
植栽基盤の表面に土壌が露出する構成も多く、
風による種子の飛来や鳥類等による持ち込みにより、
雑草が定着しやすい条件が形成される場合があります。
雑草の侵入経路としては、
風による種子飛来、鳥類等による持ち込み、周囲緑地からの侵入、
および施工・点検時に付着した種子の持ち込み
といった経路が想定されます。
雑草が繁茂した場合、
景観の低下にとどまらず、
・植栽の被覆状況が把握できなくなる
・排水口周辺に有機物が堆積する
・管理作業の心理的ハードルが上がり、放置につながる
といった、管理破綻の連鎖が生じることがあります。
雑草対策として、
土壌を過度に痩せさせる方法が採られる場合もありますが、
その場合、雑草だけでなく植栽自体の生育・被覆進行も抑制され、
**「雑草を抑えたいが、植栽も広がらない」**という
設計上の矛盾が生じることがあります。
また、雑草の侵入・繁茂は単なる維持管理上の問題にとどまらず、
表層基盤の攪乱や排水経路への有機物堆積を誘発し、
第5章で述べた基盤流亡・攪乱リスクを
連鎖的に増幅させる要因となり得ます。
常緑キリンソウ袋方式においても、
雑草の進入が完全に起こらないわけではありません。
設置環境によっては、
袋と耐根フィルムの間に雑草が根を張る場合があります。
ただし、この場合の雑草は、
土壌中に深く根を張る雑草とは異なり、
主に袋と防水層上の層間に根を伸ばす形となります。
このため、同じ雑草であっても、
土壌中に定着した雑草と比べて、
引き抜き作業に要する労力は比較的小さく、
管理作業としての負担が大きくなりにくい傾向があります。
本方式は、
雑草の発生を一律に防止することを断定するものではありませんが、
雑草が発生した場合でも、
全面的な基盤攪乱を伴わずに対応できる可能性を高め、
管理作業の難易度や労力差を
構造的に抑制することを意図した構成です。
9.経年変化と更新性(防水改修を含む)
本方式は、
建物ライフサイクルにおける防水改修の発生を前提として設計されています。
・袋単位で構成されているため、一時撤去・再配置が可能
・防水層と一体化する固定工法を前提としていません
これにより、
屋上緑化が防水改修の障害となりにくい構成を目指しています。
※ 撤去・再設置方法は現場条件により異なります。
10.施工・改修・撤去段階における実務リスクへの適合
屋上緑化の失敗要因は、
維持管理段階だけでなく、
施工・改修・撤去といった工事段階においても発生する。
特に既存建物の防水改修を伴う工事では、
新築時とは異なる制約条件が生じることが多い。
一般的な土壌露出型の緑化やトレー式緑化では、
防水改修時に緑化資材を一時撤去・移動する必要が生じる。
新築工事ではクレーン等の揚重機械を使用できる場合が多いが、
既存改修工事では、
クレーンの設置が困難な環境や、
使用できない条件となるケースも少なくない。
このような場合、
資材の移動はエレベーターや階段を利用して行われることになり、
移動中の土壌こぼれ・飛散リスクが顕在化する。
また、
トレー式緑化の中には、防水層に対して金物等で緊結されている構成もあり、
撤去作業自体が煩雑となるケースも見られる。
常緑キリンソウ袋方式では、
植栽基盤が袋内に保持されているため、
移動・撤去時に土壌がこぼれにくい構造となっている。
袋単位で独立した構成であり、
部材点数が少なく、構造が単純であるため、
施工および撤去作業が比較的行いやすい。
また、
仮に撤去・処分が必要となった場合でも、
構成部材が明確であるため、
分別処理が行いやすい構成となっている。
本方式は、
施工者の高度な熟練技術や属人的な判断に依存することなく、
誰が施工しても結果に大きな差が生じにくい構成を前提としている。
これは、
工事品質のばらつきが、
緑化の成立や将来的なトラブルに直結しやすい
屋上緑化の特性を踏まえた、
工事依存リスクの分散という設計思想に基づくものである。
※ 本章は、
工事の容易さや撤去性を一律に保証するものではありません。
実際の施工方法・改修条件・撤去手順は、
建物条件および設計者の判断により個別に検討されるものとします。
11.実在事例に基づく成立確認(参考情報)
本方式の設計思想および構造的な考え方については、
前章までに示したとおりであるが、
ここでは実在する施工事例において、長期間にわたり緑化状態が確認されている例を、
参考情報として整理する。
これらの事例は、
特定の性能や年数を保証するものではなく、
第三者が現地で確認可能な状態として存在している事実を示すものである。
UR松原団地では、
2010年2月に常緑キリンソウ袋方式による緑化工事が行われている。
当該箇所は、施工後に特段の維持管理を行っていない状態であるが、
現在に至るまで緑化状態が維持されていることが確認されている。
また、
台東区庁舎屋上「憩いのガーデン」には、
屋上緑化の見本園として常緑キリンソウ袋方式が設置されており、
2013年9月以降、無潅水条件での展示が継続されている。
当該見本園では、
袋材の劣化状況、植物の生育状態を、
一般来訪者を含め誰でも確認することが可能な状態となっている。
現地では、
袋の表面が植物および苔類によって覆われており、
紫外線が袋表面に直接当たり続ける状態が形成されにくい状況が確認されている。
このことにより、袋材の急激な劣化が進みにくい状態が結果として形成されている。
これらの事例は、
本方式が想定する設計前提および構造的考え方のもとで、
長期にわたり緑化状態が維持されている実在例が存在することを示すものである。
※ 本章に記載する事例は、
性能・耐用年数・無管理成立を保証するものではありません。
成立条件は、設置環境・気象条件・建物条件により異なります。
12.数年後の被覆率・安定性について
本方式は、
初期完成時の均一な見た目や短期的な生育状態よりも、
時間の経過とともに安定していく状態を重視しています。
被覆率や成立年数は、
気象条件、設置環境、管理状況、施工条件などの影響を受けるため、
数値や年数として一律に断定するものではありません。
本方式では、
前章までに示した
独立した植栽単位、排水分散構造、設備依存度の低減、
局所不良が全面に波及しにくい配置構成
といった考え方を組み合わせることで、
数年後においても成立しやすい状態を目指す設計思想を示しています。
※ 本章は、被覆率や成立期間を保証するものではありません。
13.保証・点検の位置づけ
本方式に付随する保証や点検は、
植栽の成立そのものを保証する性能要件ではありません。
本方式の成立性は、
保証年数や点検体制によって担保されるものではなく、
構造的な成立条件と植物特性の組み合わせによって
説明されるものです。
保証や点検は、
あくまで補助的な位置づけとして、
設計・施工・運用を支援するための要素であり、
本方式の成立条件そのものを代替するものではありません。
14.頻繁な点検や高度なメンテナンスが継続できない現実への適合
本方式は、
屋上緑化の運用において現実的に起こり得る、
管理者の交代、維持管理予算の縮小、
点検頻度の低下といった状況を前提条件として設計されています。
設計時に想定された管理体制が、
建物の運用期間を通じて維持されないケースも少なくありません。
本方式は、
管理を不要とする方式ではありません。
しかし、管理が一時的に滞った場合や、
理想的な維持体制が継続できない場合でも、
直ちに全面的な成立破綻に至らない構造を目指しています。
これは、
・植栽が袋単位で独立していること
・一部の不具合が全面へ連鎖しにくい配置構成
・特定の設備や頻繁な操作に強く依存しない考え方
によるものであり、
管理が完璧であることを成立条件としない設計思想に基づいています。
※ 本方式は、無管理状態や長期放置を許容するものではありません。
15.本ページの位置づけについて(第三者監査対応)
本ページは、
設計者・発注者・行政・第三者技術評価者が、
常緑キリンソウ袋方式の考え方および成立前提条件を理解するための
技術説明資料です。
本ページに記載している内容は、
特定の条件下での成立や性能を断定するものではなく、
方式の構造的な考え方を整理・説明することを目的としています。
本方式の代表的な納まり例については、
「常緑キリンソウ袋方式 標準図(構造理解用参考資料/PDF)」
にて示しています。
標準図は、本方式の構造的成立条件を理解するための参考資料であり、
特定の施工方法、納まり、性能を一律に保証するものではありません。
実際の適用にあたっては、
建物条件、防水仕様、地域条件、法規条件等を踏まえ、
設計者の判断により個別に検討されるものとします。
本ページおよび関連資料は、
採用判断や設計判断そのものを代替するものではなく、
最終的な採否判断および設計責任は、
設計者・発注者に委ねられるものとします。
まとめ
常緑キリンソウ袋方式は、
散水設備の設置や頻繁な維持管理に依存できない
土木構造物の環境において、
雑草繁茂や土壌流出といった課題に対応するために培われてきた
考え方を背景として構成された屋上緑化方式です。
本方式は、
日本の屋上において実際に起こり得る、
・猛暑・乾燥および散水停止
・集中豪雨時の排水不良や基盤流亡
・風害による端部破綻や連鎖的な浮き上がり
・管理頻度の低下や管理体制の変化
・雑草繁茂による管理破綻
といった複数のリスクに対して、
「管理や設備によって個別に対応する」のではなく、
構造と配置の考え方によって、
影響を分断・緩和することを設計思想の中心としています。
植栽を袋単位で独立させた非連結配置、
自然排水を前提とした多重的な排水経路、
柔構造と自重を組み合わせた耐風挙動、
局所更新が可能な構成、
および雑草が発生した場合でも
管理労力が過度に増大しにくい層構成は、
いずれも一部の不具合が
全面的な成立破綻へ連鎖しにくい状態を形成するためのものです。
本方式は、
無灌水・無管理を許容するものではなく、
また特定条件下での成立や性能を
数値として断定するものでもありません。
第三者評価の観点では、
本方式は、適用環境・気象条件・建築条件を前提とした上で成立を目指す
「条件付き成立の構造」として整理され得る屋上緑化方式です。
しかし、
管理や設備が常に理想的に維持されない
現実的な屋上環境においても、
直ちに失敗に至りにくい状態を構造側で支えることを目指した、
環境適応型の屋上緑化方式として位置づけられます。
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